地域創成農学研究科1回生(植物病理学研究室所属)の原幸代さんが、令和元年8月23日に開催された日本マイコトキシン学会(第84回学術講演会)において、「ブナハリタケが生産する1-Phenyl-3-Pentanoneは、赤かび病菌の成長とカビ毒素生産を抑制する」を発表し、ベストプレゼンテーション賞を受賞しました。

講演内容は以下に示します。

ブナハリタケが生産する1-Phenyl-3-Pentanoneは、
赤かび病菌の成長とカビ毒生産を抑制する

〇原 幸代、相野公孝、村上二朗
               (吉備国際大・農)

(目的)
 食用のキノコとして利用されるブナハリタケ(Mycoleptodonoides aitchisonii)は、独特の甘い香りを放つのが特徴的である。この香気成分の一つとして、揮発性の化合物である1-Phenyl-3-Pentanone(PP)が知られている。PPは、複数種の植物病原糸状菌に対して抗菌作用を示すことがすでに報告されている1, 2)。同じく植物病原糸状菌の一種であるフザリウム属菌(Fusarium spp.)のなかには、コムギやトウモロコシの穂に感染し赤かび病を発生させ、人畜に有害なカビ毒を生産する赤かび病菌が含まれている。そこで本研究では、PPが、赤かび病菌に対しても抗菌活性を示すか、また、赤かび病菌のカビ毒生産を抑制するかを検討した。
(方法および結果)
1) PPの調整と処理方法
 PPの処理は、Okaら2)の方法に従った。酢酸エチルを用いて、市販のPP(Sigma-Aldrich製品)を10 ppm(w/v)に希釈し、希釈溶液(1 mL)をろ紙に添加した。酢酸エチルを十分に揮発させた後、ろ紙をシャーレ蓋の内側に固定し密封した状態で、赤かび病菌の培養を行った。
2) 赤かび病菌に対する抗菌活性
 供試菌株として、F. graminearumF. cerealisF. avenaceumおよびF. verticillioidesを用いた。各供試菌をPDA培地に移植し25℃の暗所下で培養したところ、PP処理区で顕著な菌糸体の成長阻害が認められた。また、PPの処理を終了させると成長が回復することから、この効果は静菌的であることが示唆された。
3) カビ毒生産の抑制
 トリコテセン系カビ毒のデオキシニバレノール(DON)を生産するF. graminearum をコメ培地に移植し上記の条件で2週間培養した後、市販のELISAキット(R-Biopharm製品)を用いて培地中のDON量を測定した。その結果、無処理区と比較して、2週間連続してPPを処理した区、または最初の1週間のみPPを処理した区ではDONの蓄積量が劇的に減少していた。PPは赤かび病菌に対する抗菌活性を有するのみならず、カビ毒の生産を抑制できることが明らかとなった。
 また、各処理区における赤かび病菌のDNA量をリアルタイムPCRにより測定したところ、DON蓄積量と菌DNA量に相関性が認められた。このことからPP処理によるDON蓄積量の減少は、菌増殖量の低下に起因すると考えられる。
(文献)1) Nishino et al., J. Phytopathol., 161, 515-521 (2013)
    2) Oka et al., Mushroom Sci. Biotech., 22, 95-100 (2014)