〇川﨑智典1・西口真嗣2・石井英夫1
タマネギ灰色腐敗病斑より分離された菌のSDHI剤感受性検定法とモニタリング
Kawasaki, T., Nishiguchi, S., Ishii, H.:Methods for testing SDHI fungicide sensitivity and monitoring of fungal isolates from gray-mold neck rot on onion

灰色腐敗病はタマネギの主要病害の一つであり、防除薬剤としてボスカリドやペンチオピラドも使用されている。そこで、本病原菌のこれら薬剤に対する感受性検定法を検討した。近縁の灰色かび病菌で使用されるYBA寒天培地ペーパーディスク法(鈴木・黒田 2010)を用いた場合、両薬剤のEC50は0.1ppm以下であったが、薬剤無添加培地上で生育しないものがあった。このためGLYE寒天培地(櫻井 2007)ペーパーディスク法を採用した。本菌のボスカリドやペンチオピラドに対するベースライン感受性はEC50 < 0.1ppmであり、2013年兵庫県南あわじ市から分離された31菌株も同様の感受性を示した。次に、2015年5~8月に同市内から分離した22菌株の中にボスカリド感受性が低い(EC50:2.1~12.7ppm)10菌株が見出され、そのうち4菌株はペンチオピラドにも感受性が低かった(EC50:1.1~2.6ppm)。sdhB遺伝子の部分塩基配列を解析したところ、両薬剤に感受性が低い菌株でも灰色かび病菌で報告のあるコドン272の耐性変異(Leroux et al. 2010)は見られなかった。
 

1吉備国際大・ 2兵庫農総セ)

  


○石井英夫・黒崎 敦

イネ紋枯病及び疑似紋枯病斑より分離された糸状菌が示すSDHI剤感受性
Ishii, H., Kurosaki, A.: Sensitivity of the fungal isolates originated from rice sheath blight and related symptoms to SDHI fungicides.

兵庫県南あわじ市では,、イネ紋枯病の防除薬剤の一つとしてSDHI剤フラメトピルが使用されている。そこで,2015年8月及び9月に同市内の圃場で発生したイネ紋枯病及び疑似紋枯病斑から糸状菌を組織分離し、フラメトピルと新規SDHI剤(国内未登録)ベンゾビンジフルピルに対する感受性をYBA寒天培地上の菌糸生育程度により検定した。また,、供試菌株の培養菌そうより全DNAを簡易抽出後,、rDNA-ITS領域をPCR増幅し、その塩基配列を解析した。菌そうの性状やrDNA-ITSの塩基配列からRhizoctonia solaniThanatephorus cucumeris)と同定された菌株はフラメトピルとベンゾビンジフルピルの両薬剤に高い感受性を示した(EC50 < 0.1 ppm)。一方R. solani以外の菌株にフラメトピル感受性の低いもの(EC50 > 3.9~100 ppm)がみられたが、それらの多くはベンゾビンジフルピルに高い感受性を示した(EC50 < 0.1 ppm)。SDHI剤の作用点のうちSDHBの遺伝子を解析した結果、フラメトピル感受性の低い菌株でもヒスチジンは保存され他菌で報告のある耐性変異はみられなかった。

(吉備国際大)

○佐野永暁・石井英夫

キャベツ菌核病菌のボスカリド及びペンチオピラドに対する感受性検定法とベースライン感受性
Sano, N., Ishii, H. : Methods for testing boscalid and penthiopyrad sensitivity and baseline sensitivity in Sclerotinia sclerotiorum.

キャベツ菌核病の防除薬剤としてSDHI剤ボスカリドやペンチオピラドが使用されている。そこで、本病原菌のこれら薬剤に対する感受性検定法やベースライン感受性について検討した。2015年5月に兵庫県南あわじ市で採集したキャベツから菌核病菌を組織分離し、ボスカリドはYBA寒天培地とGLYE寒天培地(櫻井 2007)、ペンチオピラドはGLYE寒天培地上の菌糸生育試験により菌の感受性を検定した。全ての菌株に対して両薬剤のEC50は1ppm以下であった。次に、薬剤を実用濃度で散布したキャベツ苗の葉に菌叢ディスクを接種後、病斑直径を測定して発病抑制率を求めたところ、高い効果を示した。培養菌体から全DNAを簡易抽出し、rDNA-ITSをPCR増幅後、その塩基配列を解析したところ、供試菌株はSclerotinia sclerotiorumと確認された。sdhB遺伝子のシークエンス解析の結果、コドン273のアミノ酸は野生型のヒスチジンであり、培地検定や接種試験の結果を裏付けるものであった。

(吉備国際大)

○黒崎 敦・石井英夫

イネ紋枯病及び疑似紋枯病斑から分離されたRhizoctonia solaniほかのQoI剤に対する感受性低下
Kurosaki, A., Ishii, H.: Reduced QoI-fungicide sensitivity in Rhizoctonia solani isolated from rice sheath blight symptoms.

各地でイネいもち病菌のQoI剤耐性が問題となる中、近年発生が増加傾向にある紋枯病でもQoI剤耐性菌の発達が懸念される。そこで、2015年8月及び9月に兵庫県南あわじ市の圃場で発生したイネ紋枯病及び疑似紋枯病斑から糸状菌を組織分離し、アゾキシストロビンに対する感受性をPDA培地上の菌糸生育程度により検定した。次に、供試菌株の培養菌そうより全DNAを簡易抽出後,、rDNA-ITS領域をPCR増幅し、その塩基配列を解析した。その結果、菌そうの性状やrDNA-ITSの塩基配列からRhizoctonia solaniThanatephorus cucumeris)と同定された菌株にアゾキシストロビン100 ppmでも生育するものがみられ、感受性低下が観察された。対照のR. solani菌株はアゾキシストロビン1 ppmで全く生育しなかった。この感受性低下はオリサストロビンやメトミノストロビンに対しても認められた。また,R. solani以外の菌株にもアゾキシストロビン感受性の低いものがみられた。R. solaniのQoI剤に対する感受性低下は米国で報告がある(Olaya et al. 2012)が、我が国ではこれが初めてである。

(吉備国際大)