〇川﨑智典・村上二朗・石井英夫
タマネギの腐敗鱗茎より分離されたMucor circinelloidesほかの特性
Kawasaki, T., Murakami, J. and Ishii, H.:Characteristics of Mucor circinelloides and other fungi isolated from decayed bulb of onion.
2015年, タマネギの腐敗鱗茎より分離した菌株中にSDHI剤ボスカリド, ペンチオピラドの両薬剤に対して感受性が低い菌株を見出した(川崎ら, 2016). これらの菌株のrDNA-ITS領域をPCR増幅後, その塩基配列を解析してMucor circinelloidesと同定した. 光顕観察で測定した分生子の大きさ(5.2 – 5.9 μm×3.8 – 5.0 μm)や形態的特徴も本菌に関する既報のデータ(Saito et al., 2016)と一致した. 外観が健全なタマネギ鱗茎を切断し, これにM. circinelloidesのタマネギ分離株の分生子懸濁液または菌叢ディスクを接種し湿室状態に保って病原性の有無を調べたところ,微弱な病原性が確認され,菌も再分離された. 次に, 2016年4月〜5月にかけて兵庫県南あわじ市内のタマネギより分離した15菌株の上記薬剤に対する感受性検定を行った結果,2菌株のボスカリド(EC50 : 1.8 及び>100 ppm)とペンチオピラド(EC50 : 2.1及び3.7 ppm)に対する感受性が低かった. これらの菌株のrDNA-ITS領域をPCR増幅後, 塩基配列を解析したところBotrytis sp. であることが確認された.
○佐野永暁1・清水麻衣2・村上二朗1・石井英夫1
各地から分離されたボスカリド耐性キュウリ褐斑病菌のフルオピラム感受性
Sano, N., Shimizu, M., Murakami, J. and Ishii, H.: Fluopyram sensitivity of boscalid-resistant isolates of cucumber Corynespora leaf spot fungus collected from various regions.
キュウリ褐斑病菌のSDHI剤ボスカリドに対する耐性菌が広く知られている(Miyamoto et al., 2009)が,ボスカリド超高度耐性菌(薬剤作用点たんぱく質の一つsdhBがH278Yに変異)や高度耐性菌(sdhBがH278Rに変異)は同じSDHI剤に属するフルオピラムには交差耐性を示さないことが報告されている(Ishii et al., 2011).この現象の普遍性を確かめるために,主として2010年及び2011年に北海道から九州に至る各地の一般農家圃場より分離されたキュウリ褐斑病菌60菌株を用いて,ボスカリドとフルオピラム(バイエルクロップサイエンス(株)より分譲)に対する感受性をYBA寒天培地上の菌糸生育試験により検定した.その結果,ボスカリド超高度耐性が22菌株,高度耐性または中等度耐性が9菌株,感受性が29菌株であった.一方,フルオピラムはほとんどの菌株に高い菌糸生育阻害効果を示したが,フルオピラム感受性がやや低い(EC50:1.1 ~9.1 ppm)6菌株も見出された.これらの菌株のsdhB遺伝子のシークエンスを現在解析中である.
○山邊周平・村上二朗・石井英夫
タマネギベと病菌及びレタスべと病菌からのチトクロームb遺伝子の検出法
Yamabe, S., Murakami, J. and Ishii, H.: Methods for detection of cytochrome b gene in onion downy mildew and lettuce downy mildew pathogens.
タマネギ及びレタスの重要病害であるべと病には,防除薬剤としてQoI剤のアゾキシストロビンやピコキシストロビンなどが登録されている.将来起こりうるQoI剤感受性低下の遺伝子診断法を開発する目的で, タマネギベと病菌及びレタスべと病菌からチトクロームb遺伝子を検出する方法を検討した.圃場で発生した罹病葉から分生子を採取し,市販のDNA抽出キット(Sigma REDExtract-N-Amp Plant PCR Kit)で全DNAを抽出した.また, 分生子を抽出用バッファー(Saitoh et al., 2006)中に入れ,電動ドリルで破砕する簡易かつ安価な方法も用いた.2つの方法で抽出したDNAから,QoI剤の作用点タンパク質であるミトコンドリアのチトクロームbをコードする領域を,プライマーRSCBF1とRSCBR2(Ishii et al., 2001)によりPCR増幅した.得られた産物をダイレクトシークエンシングし, NCBI BLAST検索した結果,他種のベと病菌の塩基配列と高い相同性を示した.さらに,アミノ酸配列を推定したところ, チトクロームbのコドン143は野生型のグリシンであった.
○石井英夫1,2・西村久美子1・田辺賢二3
ナシ品種「巾着」と「香梨」はナシ黒星病菌の6つのレースすべてに高度抵抗性である
Ishii, H., Nishimura, K. and Tanabe, K.: The pear cultivars ‘Kinchaku’ and ‘Shanli’ are highly resistant to all of the six races of Venturia nashicola.
国内のナシ黒星病菌には「幸水」や「マメナシ12」に対して病原性の異なる3つのレースが存在するが,ニホンナシ「巾着」はこれらに高度抵抗性である(Ishii et al., 2002).本研究では,中国や台湾を含む国内外からナシ黒星病菌を単胞子分離し, これらを2003年から2013年まで茨城県つくば市の農環研にて接種試験に供した.セロファン培養で形成させた分生子の懸濁液を鉢植えナシの若葉の主脈に点滴接種し,1ヵ月後に分生子形成病斑の有無を観察した.試験は少なくとも2回行って病原性を確認した.その結果,ナシ黒星病菌は判別品種・系統である「幸水」,「マメナシ12」に加えて「京白梨」,「横山梨」,「鴨梨」,「リンゴ梨」や「南果梨」に対する病原性の違いにより,レース1からレース6までの少なくとも6つのレースに分けられた.供試した17品種・系統のうち,非宿主セイヨウナシの「フレミッシュビューティー」のほか,「巾着」や中国、新疆ウイグル自治区で栽培される高級品種「香梨」には黒星病の症状が全く見られず,これらがナシ黒星病菌のすべてのレースに強い抵抗性を持つことが明らかになった.このことから,黒星病抵抗性育種における「巾着」や「香梨」の有用遺伝資源としての更なる活用が期待される.