各種SDHI剤のボスカリド耐性キュウリ褐斑病菌と灰色かび病菌に対する活性比較
○石井英夫1,2・川崎智典1・片寄考太1・宮本拓也3・鈴木啓史4・川上 拓5
(1吉備国際大・2農環研・3茨城園研・4三重中農普セ・5三重農研)
【目的】糸状菌Corynespora cassiicolaによる病害が近年各国で増えているが、同菌によるキュウリ褐斑病ではボスカリド耐性菌が知られる(Miyamoto et al., 2009)。この耐性菌は灰色かび病菌Botrytis cinereaでも見出され、次第に分布を拡大している(鈴木・黒田、2010)。そこで、ボスカリド耐性菌に対する各種SDHI剤の阻害活性を比較するとともに、薬剤作用点であるコハク酸脱水素酵素sdhの遺伝子変異との関係を知る。
【方法】国内で分離されたキュウリ褐斑病菌及び灰色かび病菌のボスカリド耐性菌と対照の感受性菌を、各種SDHI剤を添加したYBA寒天培地で培養し、菌糸生育に対する阻害活性を調べた。次いで、培地検定でボスカリド耐性菌に高い抗菌活性を示したベンゾビンジフルピル(シンジェンタより分譲)については、ポット植えのキュウリ苗とインゲンマメの切り取り葉に分生子懸濁液を接種して発病抑制効果を検討した。また、sdhサブユニット遺伝子のシークエンスに関してキュウリ褐斑病菌は既存のデータ(Miyamoto et al., 2011)を用い、灰色かび病菌では新たにPCR増幅後、ダイレクトシークエンシングを行った。
【結果】フルオピラムとイソフェタミドはキュウリ褐斑病菌のボスカリド超高度耐性菌(sdhB-H278Y)と高度耐性菌(sdhB-H278R)に高い抗菌活性(EC50 < 0.3ppm)を示し、既報の結果(Ishii et al., 2011; 佃、2015)と一致した。一方、ボスカリド超高度耐性菌はペンチオピラド、イソピラザム、フルキサピロキサド、ピラジフルミドに明瞭な交さ耐性(EC50: 2.2~36.2ppm)を示したが、ベンゾビンジフルピル(EC50: 2.2ppm)にはその程度は弱かった。ベンゾビンジフルピル200ppmはキュウリ褐斑病菌のボスカリド超高度耐性菌、高度耐性菌、中等度耐性菌による発病をそれぞれ平均87.1%、96.4%、95.3%と強く抑制した。
ボスカリド耐性灰色かび病菌の中で優占的なsdhB-H272R/Y変異菌に対してフルオピラムとイソフェタミドは高い抗菌活性(EC50: < 0.1~2.2ppm)を示したが、sdhB-P225Fを持つ菌はこれら両薬剤とピラジフルミドに高い耐性を示した。一方、ベンゾビンジフルピルはsdhB-H272R/YやsdhB-P225F変異菌にも抗菌活性が高かった(EC50: < 1ppm)。接種試験においてベンゾビンジフルピル200ppmはsdhB-H272RやsdhB-H272Yを持つボスカリド耐性灰色かび病菌による発病をそれぞれ平均97.7%、81.1%と十分に抑制した。
Differential activity of various SDHI fungicides against boscalid-resistant isolates of Corynespora cassiicola and Botrytis cinerea.
○Hideo Ishii1,2, Tomonori Kawasaki1, Kota Katayose1, Takuya Miyamoto3, Hirofumi Suzuki4 , Taku Kawakami (1Kibi International University; 2National Institute for Agro-Environmental Sciences; 3Horticultural Research Institute, Ibaraki Agricultural Center; 4Mie Prefecture Chuo Agricultural Extension Center; 5Mie Prefecture Agricultural Research Institute)