国内産イネ紋枯病菌のQoI剤感受性
○石井英夫1・黒崎 敦1・石井貴明2・櫻田史彦3・内橋嘉一4・秋満柊兵1
1吉備国際大・2福岡農林総試・3宮城古川農試・4兵庫農技総セ)

【目的】米国でイネ紋枯病菌Rhizoctonia solaniのQoI剤耐性菌(Olaya et al., 2012; Lunos and Hollier, 2015)に続き,水田輪作ダイズの葉腐病で同じ耐性菌による薬効低下が報告されている(Price et al., 2015)。わが国では、イネいもち病菌のQoI剤耐性菌が国内に広く分布する中、培地上でQoI剤感受性が低いイネ紋枯病菌が見られることを先に報告した(黒崎・石井、2016)。そこで、更に供試菌株を増やして耐性菌が検出されるかどうかを検討した。
【方法】1. 2016年に福岡、宮城、兵庫の各県から分離されたイネ紋枯病菌につき、アゾキシストロビンとAOX阻害剤、没食子酸n-プロピルを添加したPDA培地で25℃、40時間培養して菌糸生育を観察、薬剤感受性を調べた。農業生物資源ジーンバンクより分譲された菌株を対照とした。
2.イネ(コシヒカリ)の幼苗にアゾキシストロビン100ppm液を散布し、液体培養で得た紋枯病菌の菌叢片をPark et al. (2005)の方法で葉鞘に接種、25℃の湿室に3日間保った後、形成された病斑の長さを測定して薬剤の発病抑制率(%)を求めた。
3.紋枯病菌の菌叢片から全DNAを簡易抽出し、PCRでチトクロームb遺伝子を増幅、精製した後ダイレクトシークエンシングを行った。
【結果および考察】1. 当初使用した対照菌株はアゾキシストロビン1ppm(没食子酸n-プロピル無添加)を含むPDA培地でも菌糸生育を示さず、これと比較した結果、一部の地域で感受性低下菌が検出されたとしていた(黒崎・石井、2016)。しかしその後、この対照菌株がベースライン感受性の特に高い超感受性菌であることが判明した。対照菌株も増やして検定したところ、これまでに供試した各県からの菌株はすべてアゾキシストロビン100ppmと没食子酸n-プロピル1mMや2mMを含む培地で生育せず、アゾキシストロビン感受性菌と思われた。
2.上記の培地検定で感受性を示したものから6菌株を選抜してイネの苗に接種した結果、アゾキシストロビン100ppmは84.8~100%の高い発病抑制率を示し、薬効低下は観察されなかった。
3.シークエンシングによって得られた部分塩基配列からNCBI BLASTでチトクロームbのアミノ酸配列を推定したが、検定菌株と対照菌株はともにF129、G137、G143の野生型を示し、イネ紋枯病菌のQoI剤耐性菌で報告されたF129L(Olaya et al., 2012)のアミノ酸置換は見られなかった。
 以上の試験において、紋枯病菌にQoI剤耐性菌は検出されなかった。しかし、いもち病ほかとの同時防除にQoI剤が使用される地域では、病原菌のQoI剤感受性も継続してモニタリングし、耐性菌の発達に伴う病害の多発を未然に防ぐことが重要である。

QoI fungicide sensitivity of Rhizoctonia solani isolates, the cause of rice sheath blight, in Japan.
○Ishii, H.1, Kurosaki, A.1, Ishii, T.2, Sakurada, F.3, Uchihashi, K.4 and Akimitsu, S.1 (1Kibi Intr. Univ., 2Fukuoka Agric. Forest. Res. Center, 3Miyagi Prefect. Furukawa Agric. Exp. Stn., 4Hyogo Prefect. Agric. Technol. Center)